伝えたいことをまとめたメモを読んでいると、池田さんがやってくるのが見えました。
私はメモをカバンにしまい、できるだけいつものように笑顔を見せて、手を振りました。
泣きながら話したり、どんよりとした暗い顔など見せたくない、と思ったのです。
もともと私はよく泣くほうですが、今日だけは泣かないぞ!と心に決めていました。
「お久しぶりですね」
そういって、私は笑いました。案外、うまくできました。
「そう、ですかね」
池田さんのほうがちょっと緊張しているようでした。
でも、池田さんも不機嫌な様子でもなかったので、私は安心しました。
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「どこか、喫茶店にでも入りませんか?」
私からそう言いました。
実は、事前に喫茶店の場所は調べてあったので、池田さんとそこに向かいました。
少しだけ高めの値段設定のお店を選びました。
そこなら、きっと静かに話ができるだろうと考えたのです。
私の予想通り、店内はそれほど込み合っておらず、また、席と席の間も少し余裕がありました。
お客さんの年齢層も高めで、落ち着いた雰囲気でした。
ついてすぐに、池田さんと私はコーヒーを注文しました。
「最初に僕から話していいですか?」
と、意外なことに池田さんがそう言いました。
でも、ここで池田さんが先に話してしまうと、私は言いたいことを言えなくなってしまう可能性がありました。
だって、
「綾香さんとはもう会うつもりはありません。これが最後です」
なんて言われたら、言葉を失ってしまいます。
なので、申し訳ないですが、「ごめんなさい、先にちょっとだけ私から話したいです」と、言いました。
今日、池田さんにわざわざ来てもらったのは、私の個人的な理由です。
いろいろと後悔したくない、ただそれだけだったのです。
大崎さんから突然、フェードアウトされたときに、どうしてやんわりとでもいいから自分の好意を伝えなかったんだろう、と後悔しました。
私たちは共通の友人もいない、ただLINEとかメールとか、そんな不確かなものでしかつながっていない関係で、
いつ会えなくなってもおかしくはないということを忘れていました。
なので、今回は後悔したくない、と思っていたのです。
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